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ボストン留学記


ケネディスクール留学を終えた筆者が新しい挑戦を始めます。
by shinya_fujimura
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第366号 30代の留学最後の1週間 ~正義論の可能性を信じるお茶目な先生~

4月27日(水)の夜、ケンブリッジにて

今学期は木曜日、金曜日と授業は取っていないため、水曜日の夕方が最後の授業となりました。

最後の授業は、Political Philosophy 政治哲学 です。

この授業は自分の留学生活の集大成にふさわしいものでした。なぜなら、政治哲学とは、誤解を恐れずに言えば、私たちの暮らすこの世界がより良くあるために、この世界はどうあるべきかを問う学問だと考えてきたからです

最終回は故ジョン・ロールズ。セイント・ロールズの異名をとり、20世紀最大の政治哲学者とも称される、ハーバードの元教授です。代表作は

A Theory of Justice 「正義の理論」
Justice as Fairness 「公正としての正義」

日本では「正義」と言うとサンデル教授の代名詞のようになっていますが、アメリカでは正義論の本家本元はジョン・ロールズということで異論のある人はいないでしょう。実はサンデル教授の正義論は、1970年ころに出版されたロールズの A Theory of Justice への反論とも言われています。それに象徴されるように、ロールズの正義論は物議をかもしたのです。

ではなぜ物議をかもしたのでしょうか。

ある本によれば、それは当時実証主義が支配的になっていた政治学の世界において、いま一度、道徳・倫理というものの大切さを訴えた点にあるそうです。

それは彼の思想に色濃く表れています。(詳細は下記をご覧ください)

その代表格は「格差原理」と呼ばれるもので、社会の根本的な原理として、最も不遇な人たちへの再分配を可能にするものであり、ある意味、これがロールズのdistributive justice (分配的正義)の真骨頂と言えるでしょう。

これは社会に生じる不平等を是正するための正義。ロールズのこの優しさこそが、多くの人の心を捕らえて離さない理由なのでしょう

ロールズの想定した世界が、もし現実のものとなれば、世界はより暮らしやすいものになるかもしれません。そんなことを想いながら、彼はきっと政治哲学の先生になることを選んだのでしょう。

ロールズの理論、そしてその語り口への感動を心から表現した先生。先生がいかにロールズを尊敬しているかが伝わってきました。ロールズの思想は、彼が亡くなった後も、こうして志を同じくする人々によって語り継がれていくのです。

人生には浮き沈みがある。自らの努力ではどうしようもできない境遇の差がある。だからこそ、分配的正義が必要なんだよ。彼の授業はそう教えてくれます。

その先生は、チョコレートが大好きでした。毎回授業にチョコレートを持ってきます。そして授業中有意義な発言をした学生にはもちろんのこと、そうでない学生にもチョコレートを分配してくれます。そして得意げにこう言います。

これこそ、正義なんだよ

最後に先生はこう言いました。

“As you go beyond the Kennedy School and make an impact, if it could play a small role in your life, it would be great.”
みんながケネディスクールを卒業し、社会で活躍するにあたって、この講義が少しでもお役に立てたなら、教師としてこれ以上の喜びはありません」(意訳)

教室中に鳴り響いた拍手が収まるまで、しばらく時間が必要でした。

(以下、ロールズの思想について私なりの解説です)

ロールズは、原初状態という状態を想定し、前提条件として、
A fair system of social cooperation among free and equal, reasonable and rational citizens
「自由で平等な、かつ、不合理なことを言わない合理的な市民間における社会的協力の公平なシステム」
を想定します。この想定自体、恐らく現実的ではありません。彼自身もこれは thought experiment 「思考実験」であることを認めています。

そして彼はこう続けます。そのような状態においては、人々は「2つの正義の原則」に同意する。その2つの原理とは

第1原理:Equal Basic Liberties (基本的自由の平等)
第2原理:Fair Equality of Opportunity and Difference Principle (機会の公正な均等と、格差原理)

第1原理は、表現の自由や思想の自由といった憲法に現れるような自由・権利が平等に保障されること。第2原理は、許される不平等は、機会が均等に開かれた地位・職務に基づくものに限られること、加えて、もう1つの許される不平等は社会で最も不遇な立場に置かれている人々のためにあることを述べています。

この最後の原理が「格差原理」と呼ばれるもので、社会の根本的な原理として、最も不遇な人たちへの再分配を可能にするものであり、ある意味、これがロールズのdistributive justice (分配的正義)の真骨頂と言えるでしょう。

by shinya_fujimura | 2011-04-29 12:56 | ケネディスクールでの生活
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